りゅうかんさまの絵日記

メモ代わりの日記です

ひろちゃん、りっちゃん

伯母と母はいつもこう呼び合っていた。

母が電話を架けると「ああ、ひろちゃんか?」
と母の声が聞こえ、

伯母から電話が鳴ると「りっちゃんか?」と
いつもの優しい声が受話器から聞こえていた。

もう居ないんやな、電話が鳴ることは絶対に
ないんやな、そうか伯母は死んだんだ。

たった1週間前に棺に入れられ、死に化粧をし、
最後は舎利になって小さな骨壺に入れれた。

死んだら灰になるだけなんや、本当に。

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伯母と母の幼き頃のエピソードを聞いたことがある。

祖母にお使いを頼まれた伯母が頼まれたものと間違えて
買ってきたらしい。いつの時代でも子供なら間違うことだってある。
そんなの店の人に言えば変えてくれる。しかし、気の弱い伯母は
「そんなん、よう言わんわ。」と尻込みしたらしい。

勝気の妹、母が出てきて「私が行って来るわ!」と姉の手を引いて
どこで買ったのか、誰に何を変えてもらったらよいのか2人で言ったらしい。

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ひろちゃん、りっちゃん。

本当はどちらも気が弱いが、大体妹の方が勝気だ。

ひろちゃん、りっちゃん。

本当に仲の良い姉妹だった。死ぬ直前まで。

神が居るならむごいね、あんないい人の命を若くして奪うなんて。

どうでもいい人が死ねば良いとは思わないが、全うに生きている人は
せめて平均近くまで生きたったいいじゃないか。

何がいけなくて死なんとならんねや。

夜に車で駆けつけて病院から家まで送ったのが最後だった。

僕の車に乗って治るならどこへでも行ったのに。
もうステージ4で右肺がほとんど機能していない。
素人でもわかるレントゲンを見た時は、
苦しくて、苦しくて最後を迎えるのではないか、
それならモルヒネでコントロールして欲しいな、
頼むからこれ以上伯母を苦しめないで欲しいと思っていた。

神はそれだけは聞いてくれた。退院して1週間で伯母は自宅で死んだ。
死ぬ直前まで一人でトイレに行って用を足していた。
娘に「トイレがしんどいねん」と言っていたらしいが、
排泄の世話を誰かに見てもらう前に死んだ。


何もかも伯母らしいといえば伯母らしい。

人に迷惑をかけるのが嫌
人に心配をかけるのが嫌
人に世話をかけるのが嫌

気高き伯母はそれを守って死んだ。

癌のくそ野郎。
大事な伯母を骨と皮だけにしやがって。

69ってなんじゃい。

微妙な歳で命を奪うな。

伯母は80くらいまでは生きても許される人生を
送ってきたはずじゃないか。

伯母の何がいけなかったんや。

言え、この野郎。